Fate/dragon’s dream

三つの小さな幕間劇 Ⅰ

Interlude 4-1

だけど。そう簡単に肯んずるわけにはいかない。生きることで澱む竜を滅することで救う。
 ジークフリート……いや、と呼ばれる存在は、おそらく正しいのだろう。でも、竜を『救う』方法は、きっと他にもある。あるはずだ。

「……」
 セイバーは消させない。それだけは、譲るつもりはない。
「確か、このへんに……」

深夜。あるものを探し、私は昼に休戦協定を結んだ部屋へ向かう。
 もしかしたら泳がされているだけかもしれない。見つかったら、そのときはそのとき。思いっきり開き直ってやるつもりでいる。

「……あった」
 やっぱり、あれがそうだったか――

昼の一幕を思い出す。なにやらソファの上で彼女がごそごそしていた箱。やや大きめの宝石箱が、ソファ近くの棚から見つかった。竜とは財宝を護るもの。彼女も例に違わなかったようだ。
 ――この場合、イメージ的には光るものを集めるカラスみたいな感じだけど。

「あちゃー……大分使い込まれてる……」
 箱を開けて私は落胆の声を漏らす。中に入ってるのは私が持ってきていた魔弾の宝石。
 本来十分な魔力が込められているはずのそれらのいくつかは、カラッポのただの宝石になっていた。

「……宝石自体が無事なのが救いか……これなら使いまわせるかも」
 損壊しているものは少なく、魔力だけを抽出されている。何に使ったのかは知らないが、大赤字だけは避けられたようだ。

だけど、今はそういうのは放っておく。魔力を使われていないもので、なるべく純度の高いものだけを一つ二つ選んで持っていかないと。
 ――残りはあとで絶対回収。

昼間、彼らが買い物に出かけたときに地下聖堂への結界を調査してみた。
 結果は簡単、私だけじゃどうやってもムリ。しかし、純度の高い宝石の補助があればなんとかなるかもしれないというところ。

よっぽど中に入って欲しくないらしいようで、排除だけを重視した結界だったのだが、それが裏目に出る。

要は鉄格子のようなものだ。強力な力で空間を捻じ曲げてはいるが、強力故に空間全てを埋める必要がなく、力と力の間にかなりの隙間がある。力そのものを取り除くのだったら大変だけど、私一人が通るにはその隙間を少し広げてやればいいだけのこと。良質の宝石の補助があればやれないことはないだろう。

時間がない。監視のファフニールが来ないうちに早く選ばないと。

「えーっと……これと、これ……あっ、翡翠の小鳥が残ってるか、こりゃラッキーだわ」
 これなら士郎たちと連絡がつけられる。でも、流石にこんな特徴のあるもの持ち出したらすぐばれるかもしれない。

――しょうがないか。背に腹は変えられない。
 もぬけの空になったエメラルド一粒に、いくつかの琥珀を流し込んで純度を落とし、魔力を通して小鳥の形に細工する。
 ああ、もったいない――エメラルドを翡翠の代わりにしちゃうなんて――

元通りの魔力は込められないけど、多少の目くらましにはなるはず。
 地下聖堂を封印するための結界自体を隠す、外側に張られた相殺結界がこちらの有利に働いてくれている。あの結界のおかげで、この中では魔力どころか気配の探知さえほとんどできない。多分、箱を開けてちゃんと調べなければ気づくことはないだろう。

「こんなとこね……あれ?」
 宝石箱の一番下に見つかったのは赤い宝石――ルビー。しかも魔力は充填完了済み。
「やった、これならきっと――!」
 まず間違いなく地下聖堂に張られた結界をこじ開けられる――!

彼らが何を目的として聖杯を求めているのか、そしてそのために地下聖堂で何を行っているのか、詳しいことはわからない。だけど冬木の管理人として、勝手に霊脈を操作されることは断固阻止だ。

「自分ちの配水管を勝手にいじられているようなものだものね……見てらっしゃい」
 ルビーを握りこみ、私は――――って、……あれ……?
(……私、ルビー他にも持ってきてたっけ?)

ルビーは魔弾のための宝石として純度が高く、強力な力を発動させることができる。その上、もともと私自身と相性がいい宝石なのだが、高価なこともあり、ここ一番のとっておきとして使っている。

もちろん今回、何が起こるかわからないアインツベルン城の調査に持ってきていたのだけど――
(あの侍女風の遺体を火葬するのに使っちゃったはず――)

――ま、いいか。事実ここにあるということは、他にも持ってきてたんだろう。
 これで道具は整った。さて、お次は――

(――ッ!)
 中庭に出ようとしたところで、廊下の奥にファフニールの姿が見えた。
(――まず――!)
 いきなりばれたか――?

耳を澄ますと、彼女はどうやらこっちに向かってくるのではなく、遠ざかっているようだった。ぽふぽふという足音が消えていく。

どうやら私が動いているのがばれたわけではなさそうだ。が、彼女が徘徊しているなら、今は地下の調査は止めておいたほうがいいだろう。彼女に気をとられてジークフリートに気づかなかったなんてことになったら目も当てられない。

でも、なにしてるのかしら――そっと足音を忍ばせ、背中が見えるぎりぎりまで近づいてみた。
「うぅ~……どうしよう……宝石箱どこしまったっけ……。あぁ……またシグに怒られるよぅ~……もう野菜いやだよぅ~……眠いよぅ~……」

(……)
 ――エメラルド潰す必要……なかった?
(ああもうバカッ! 大事なもんの管理くらいちゃんとしときなさいよっ!)
 部屋に戻るまで、見当違いの怒りを発散させまくったわけで――

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