Fate/dragon’s dream
歪な日常・I
「!?」
飛び起きた場所はベッドの上。かけられていた布団が跳ね上がる。
――あれ。私、どうしたんだっけ。冷静に。落ち着いてまずは状況確――
「おう、気が付いたか」
突然。
ぬっと目の前に男の顔が突き出された。
――な
「ジークフリート!?」
「あ、おい」
反射的にベッドをはさんだ向こう側に飛び退く。と、私はそこで――
「ッ!?」
「バァカ、慌てんな。そんなカッコで――」
――自分が、一糸纏わぬ生まれたままの姿だということに気が付いた。
「―――――ッ!?」
何がどうなったのかとか、なにかされたかしらとか、そんなことを考える暇もあらばこそ。
とっさにベッドから布団を引っ剥がし自分の身体に巻きつける。そのままの格好で部屋の隅まで後ずさり、思いっきりにらみつけてやった。
……あ、いけない。ほっとしたら悔しくなってきた。……なんか涙腺が痛い。
――ごめん士郎。 私、汚されちゃったかも――
「――なんか妙な誤解してねぇか? メシ持ってきただけなんだがな」
「うるさいケダモノッ!! 近寄ったら舌噛んでやるっ!!」
「はぁ……やれやれ。あのなあ――」
そのとき、ばぁんと勢いよくドアが開いた。
「シグー、服乾いた……よ……?」
「あー……そこに、置いといてくれや……って」
入ってきた少女は、固まったままギギギと首だけを動かしてジークフリートと私とを交互に見、そのまましばらく凝固したあと
「こンのケダモノがあぁぁっ!! なにしよーとしてたのよ、そこにおなれー!!」
「馬鹿野郎それを言うなら『なおれ』だろうがドアホッ! 第一ケダモノはどっちだこのトカゲ!!」
手に持った何かをぶんぶん振り回しながらジークフリートを叩きまくる。って、
「それ、私の服!」
「え? あ、ああ、ごめんねー。洗濯したの乾いたから持ってきたの。もしかして、この野獣がなにか変なことしようとしたんじゃないでしょうね」
ギロリとジークフリートを睨み付けながらファフニールが言う。
……なんなんだろう、この雰囲気は。しかし自分の今の状況を考えると、それよりもまず――
「大丈夫、目が覚めてからは何もされてないわ。――眠ってるときにされてたかもしれないけど」
「ンなことするかっつーの……」
「シグは黙ってて! ……うん、それなら大丈夫ね。とりあえず破廉恥なことはされてないみたい。安心していいよ」
「な、なんでそんなこと言い切れるのよ」
「だってあたし何も感じなかったし。――あ、そっか、あたしたちのこと知らないんだ。
あたしとシグはいくつか感覚を共有してるの。だからシグが変なことしたらあたしに筒抜けなのよ。とりあえずあなたには触ってないみたいだから安心していーよ」
「……なにそれ」
「さあ? あたしはもともとシグの知覚を間借りしてるだけだからね。意識と記憶は別だけど、五感のうちいくつかを共有してるのよ。おかげでいつもいつも大変な目に……」
うっうっと思い出し泣きをするファフニール。
「泣きたいのはこっちだぜ……」
ジークフリートは頭をぼりぼりかきながら言う。そんな彼に、ファフニールはいーっとあかんべーをしてみせた。
「……とりあえず服返してくれないかしら」
「――あ、ごめん。はいこれ」
「あ、ありがとう……――って、あなたそこで突っ立ってるつもり?」
「あん? ――ああ、悪かったな。気が付かなかったわ」
腕を組んで壁にもたれていたジークフリートはのそのそとドアを開けて部屋から出て行った。
「……ったくもう、デリカシーないんだから」
「……えと。あなたはそこにいるの?」
「うーん、一応監視しろって言われてるからね。視覚はシグとは別々だから安心していいよ。
あ、監視っていってもそんなに厳しいものじゃないから。とりあえずこの教会から出ないでくれればOKよ。ちょっとごたごたしててね、ここ。
……わー……いいなー……」
「ちょ、ちょっと。あんまりジロジロ見ないでくれる?」
「あや、ごめん。――うーん、やっぱり……」
――教会。ということは、あのあとジークフリートたちは教会に戻ってきたのか。
……あのあと?
「!!」
なにをぼーっとしてるんだ私は。ついつい雰囲気に流されてしまったけど、この二人は敵。私の立場は虜囚なのだ。
急いで自分の状態を改める。
……魔力は大分減ってて、完全な状態には程遠い。だけど動けないほどじゃない。
そうだ、セイバーは!? 慌てて右手を――令呪には問題なし。
よかった……。酷いダメージを負ったようだったけど、とりあえず彼女は消えずに済んだみたいだ。令呪からセイバーとの繋がりが感じられる。
それに……士郎。
あの時、士郎の額に令呪らしき刻印が浮かび上がった途端に、私はごっそり魔力を持っていかれた。本来なら士郎から私にも多少の魔力の流れがあるはずで、一気に魔力を失ったとしてもそれが緩衝になって回路への負荷を軽減するはずだったのだが、今の私たちにはそれがない。
おそらく、セイバーへ回す魔力が大きかったことと、あまりに大量の魔力を一度に失ったために、一瞬魔力回路のブレーカーが落ちたような状態になったんだと思う。その反動で意識を失ってしまったわけか……。
一体あのあと、どうなったんだろう。
「とりあえず今はしばらくここでじっとしてて。あなたも魔力が足りてないでしょうし、第一今街がかなり緊迫してるから」
「――何があったの?」
ファフニールは、はぁ、とため息をつき――
「ウチのバカが派手にやってくれちゃってねー……」
「ここは……」
赤く燃える空、夥しい屍体。壊れた武具が散乱し、焼けた空気と死臭が立ち込める。身体には無数の矢が刺さり、腕は裂け、足は折れていた。
――先日見た、戦場の光景。だが、あの鬼女の姿はなく、今この死の原にいるのは自分ひとりだった。もの言わぬ壊れたヒトガタの中に立ちすくんでいる俺は、この光景をどこか懐かしいとさえ感じる。
固有結界『無限の剣製《アンリミテッド・ブレイドワークス》』。きっとそれは、10年前の炎の中で生まれ、ただ一人で理想を駆け抜けた英雄が辿った道を、予言するものなのだろう。
赤い背中は、今ここにはない。だが、この光景を見る限り、俺はいつか必ず追いつく。
――いや、
――追いついてしまう。
なぜなら、この世界は今のこの『俺』が既に持っているモノなのだ。
固有結界によって生じる世界とは、すなわち術者の心象風景に他ならない。英雄エミヤは、魔術使い衛宮士郎の原点において生じた炎の光景を、戦いの中で具現化させるすべを得たに過ぎない。
この剣の荒野を己が心象風景として持ち続ける限り、それは俺がアーチャーと同じ道を辿るということ。
――似ている。最初は、そのせいかと思った。炎の戦場に佇む夢の自分を見つけたとき、そう思ったのだ。この光景は、自分なのだと。だからこんな夢を見てしまうのだと。
「そう、確かに似ているな」
俺以外誰もいないはずの剣と炎の荒野に、声が響く。
「だがな、少年。こんな光景は、血を浴び血を流し、殺し殺され生きる意味すら見失い、絶望の中で散って逝った戦士が最期に垣間見るような地獄の光景なのだよ。
平和に暮らしているような男子が見るようなモノではない。もしもこんなモノが自らの心の風景を写したものだというのなら、それはどこかに歪みがある証拠に他ならぬさ」
「――誰だ、姿を見せろ」
「フム。姿を見せたいのはやまやまなのだが、それをできなくさせてしまったのはお主なのだがな。ともあれ、無事でなによりだ。我がマスター、衛宮士郎殿」
「――な、に?」
「起きたら鏡を見てみるといい。
――フム、ようやく勝手が分かってきたわい。魔術はあまり得意なほうではなくてな。どこぞから魔力のパスが通っていたから遠慮なく使わせてもらったのだが、そのせいでお主の大切な女子を危険な目に合わせてしまった。すまぬな」
「――訳が分からない。あんたが誰なのかは知らないが、教えてくれる気があるならちゃんと教えてくれ!」
「――では、とりあえずお主に身体を返そう。話すならばアルトリア殿も交えた方がよかろうて」
――途端、パチリと、まるで電源がつくかのように目が覚めた。
「――な……―――いっ……!!」
い、い、いてえええぇぇぇっ!!!
(あいででででっ!! か、身体がミシミシ言ってるぅっ!?)
全身に激痛が走る。この痛みは……
(き、筋肉痛??)
全身がきしむような痛みは……筋肉痛。
お、おかしいな、そんなに身体を酷使した覚えはないんだけど……。
痛みに耐えて見回せば、そこは自宅の自室。俺はきちんと布団を敷き、そこに寝ていたらしい。
――何があったんだ? 確か昨日の夜遅く、俺たちは冬木大橋の上でジークフリートと戦ったはずだ。事前に立てておいた作戦は二つとも破られ、セイバーも……
「!?」
セイバー!!
そうだ、セイバーは!? 竜殺しの魔剣にあれほどの傷をつけられたのだ。まさか――!
(お目覚めかね? マスター)
「うわっ!」
突然頭の中に直接声が響いた。
「な……なんだ!?」
あたりを見回しても誰もいない。待てよ、そういえば昨夜も突然おかしな声が響いたような――
(やれやれ、すばやい状況判断は魔術師には必須だと思うのだがな。お主はもう少し落ち着きを持つべきだ)
――頭の中に声がする。
「頭の中――?」
(フム、これでは話が進まん。士郎殿、とりあえず隣の部屋を覗いてみるがいい。話はそれからにしよう)
――隣の部屋だって?
俺が視線をそちらに向けたとき、
「――シロウ……? 目が、覚めたのですか……?」
弱々しいセイバーの声が聞こえた。
「――セイバー!?」
その声はあまりにも儚く、今にも消えてしまいそうだった。
俺は飛び起き、
(ぐ、ぎっ……!! く、くそう、この程度の筋肉痛で――!)
あまりの痛みに一瞬中腰で固まる。メキメキ言う足を一歩づつ前へ運び、そのまま倒れこむようにして襖を開けた。
――そこには
「……う、よかった、シロウ。――ハーゲン殿、礼を言います」
布団に横たわったセイバーがいた。
「セイバー! よかった……!」
「シロウ、申し訳ありません……凛を……」
「そうだ、遠坂は……!? ああもう、何がどうなって――」
そこで。
突然俺は喋れなくなった。
(――!?)
アゴの筋肉まで硬直したかのように、ピクリとも動かない。パニックになる俺に――俺の声が語りかけてきた。
「ラチがあかぬ。少々士郎殿の身体を借りるがいいかね? アルトリア殿」
「……ええ、その方がいい。シロウは冷静さを欠くと元に戻るまでが大変ですから」
「フム、よく覚えておくことにしよう。
さて、衛宮士郎殿。大体予想はつくと思うが、とりあえず自己紹介を済ませてしまおう。
俺はハーゲン。ハーゲン・フォン・トロイエンだ。お主に召喚されたサーヴァント――ジェネラルのサーヴァントだよ」
(――な……)
なんだって!?
俺がサーヴァントを召喚した!?
そんなバカな! 一体いつの間に!? それに、第一そんなやつの姿なんて見てないぞ!?
「驚くのも無理はないがな。
――というより、むしろ俺が教えてほしいものだ。一体どんな乱暴な召喚をしでかしたんだなお主は?
術者の心象風景の中に実体化してしまう現象など聞いたこともないぞ」
――術者の心象風景の中に実体化?
……じゃあなにか?
俺は自分で気づかないうちに、ジェネラルなるサーヴァントを、固有結界の中に呼び出したってことか?
「……シロウ、落ち着いてよく聞いてほしい。
どういうわけだか分かりませんが、あなたの中にサーヴァントがいます。おそらく聖杯を通して仮の受肉をする際、何かの手違いが生じるかして、シロウの異様に具体性のある心象風景の中に呼び出され、そこに取り込まれてしまったようです。
――状態としては、霊体のままあなたに憑依しているということになるのでしょうが、サーヴァントとしての実体化をあなたの中で済ませてしまっている以上、憑依を解くことは、おそらく――」
「無理だな。いろいろ試してみたが、俺はここで身体を得てしまっている。言わば、個人の心の中に閉じ込められた格好だ。どうにかこの中から持ち主の身体を逆操作するコツはつかんだが、俺自身がここから出ることは現状できそうにない。
宝具はマスターの魔力を使って、無理矢理外に呼び出すことがかろうじて可能だったが……それも消えてしまった。次に呼び出すときは前回と同じほど大量の魔力を使わねばなるまいな」
「そういうことです、シロウ。……そして、あなたの中に呼び出された英雄は、ハーゲン殿――ジークフリートを殺害した本人です。
……これが偶然のはずはない。おそらくこの一連の事件の中で、ハーゲン殿がシロウの固有結界の中に召喚されたということには必ず意味があるはずだ。
シロウ、よく考えてください。ハーゲン殿があなたの中に召喚されたことについて、思い当たることはありませんか――?」
(思い当たることって――)
そんなもの、俺が知りたい。
「あまり参考にならなくてすまぬが、俺はここに呼び出されてから暫く、勝手を知るためにあれこれやっていてな。その間の時間感覚など当てにならぬのだ。ただ、最初にお主の知覚を借りて外を見たときは、なにやらアインツベルンとかいう城の中だったが」
「アインツベルンの城?」
――お、声が出るようになったぞ。
「うむ、おかげでどこの時代に呼び出されたのか暫く分らんかったよ。とりあえず現状を探ろうと城の中を徘徊してみたのだが、魔術師に――あとの会話でお主の師匠だと知れたが――見つかったので慌ててお主に身体の主導権を返したというわけだ」
だけど、ハーゲンがしゃべっている時は俺の喉を使っているようで、俺はしゃべれなくなる。傍から見ると一人で二人分の会話をしているように見えるだろう。
……なんかアブナイ人みたいだな……。
「じゃ、じゃあ、俺がいつの間にか5階まで上がってたっていうのは――?」
「俺が借りていたのだよ、お主の身体をな。それにしても、お主は魔術師なのだろう? 身体を借りられて勝手に使われていたということにも気づかないというのは――」
「う……悪かったな。どうせ俺はへっぽこ魔術師だよ」
「――フム、まあそう卑下することもあるまいよ。こんな――歪んでいるとはいえ、本来揺らぎ定まらないはずの心を、風景として固定してしまえているのだからな」
「実は、私もアインツベルン城で、一瞬サーヴァントらしき気配を感じたのです。本当に一瞬だったので、なにか他の気配と間違えたのかと思ったのですが――おそらくそれがハーゲン殿だったのでしょう。
凛の言うとおり、アインツベルンがラインの黄金伝説と関わりがあるとすれば、ハーゲン殿が呼び出されたのはシロウが単独行動している間……3階の調査を行っていたときではないかと、私は考えているのですが」
「――? な、なんで?」
「ニーベルンゲンの財宝をラインに沈めたのは俺なのでな。ラインの黄金と関係があるならば、俺と縁のあるモノをも持っていたとしても不思議ではあるまい? それに先ほども言ったが、俺が目覚めてからお主を通じて外界を見るまで、どのくらいの時間がかかったかということが分らぬ。
なにせ心象風景の中の時間なのでな。いくら長く感じていても、外界では一秒しか経っていないかも知れぬし、実は数時間経っていたなどということもありうる。今もこうしてお主を通じて外界と関わっていないと、自分の立つ基準がよく分らなくなるのだ」
「それじゃあ――」
「うむ、お主の記憶に頼るしかないのだよ。だが、俺と関係のある物体が関わらなければ俺が呼び出されることはない。それほど絞り込めないということはないと思ったのだが」
「……確かに、それならアインツベルン城が一番候補としては有力だけど……俺、実はあの3階を回っていたときの記憶がぼんやりしてるんだ。
俺自身は3階の調査が終わったように思い込んでいたんだけど――もしかしたら遠坂の言っていた通りなにかトラップにかかって記憶を操作されたのかもしれないし、それにハーゲンが俺を操っていたなら、余計よく分らない……って、そう言えば、――遠坂は?」
「――」
途端に、セイバーがうつむく。
「……すまない、シロウ。――私が、不甲斐ないばかりに……」
「な……セイバー、教えてくれ、遠坂は――」
「ジークフリートのところだ」
(――な……なんだって!?)
「――やはり、こんなところでこうしてはいられない。ハーゲン殿……私は――」
「バカな。そんな身体で何ができる。第一、万全の状態でさえお主ではヤツに勝てん。
ヤツの目的はお主を狩ることになりつつある。今行けば、それこそ飛んで火にいる夏の虫だ。分っていないお主ではなかろう?
竜の因子を持つとはいえ、その大元はやはり人の身であったのが幸いしたな。竜に連なる身であやつと戦い、生き残っただけでも幸運というものだ。
――暫くはまともに動くことさえできないだろうが、お主の魔力ならきっと回復するだろう。今は時期を待て」
「しかし――! 凛の身になにかありでもしたら――!」
「ヤツは助けた命を粗末に扱うようなことはせんよ。そんな程度の男ならば俺もいっそ気が楽だった」
(ええい、俺の身体返せ! さっきから全然番が回ってこないじゃないか!)
「……お主がしゃべると無駄に問題が紛糾しそうだったのでな。要はそういうことだ、士郎殿。お主の姫はジークフリートに助けられ、今はヤツと共にいる。まあ、ヤツにはファフニールがついているでな、間違いが起こったりはしないだろう。安心しろ」
(な、ま、ま、間違いって――!)
「フム、ヤツは昔からご婦人方に人気があったぞ? お主が信頼しているなら大丈夫だろうが」
「――ハーゲン殿――」
「それに、今は街全体がざわめいている。向こう側……新都、と言ったか? そこへ行くにも一苦労だ。お主の身体のこともあるし、ここは待つが上策」
(街が―――ざわめいている?)
「――百聞は一見にしかずだ」
ハーゲンはそう言うと、勝手に俺の身体を歩かせ始めた。って、
(あ、あいっ、いでででで!! こ、こら、もうちょっとゆっくり歩けぇぇぇっっ!!)
他人が動かしているとはいえ俺の身体だ。ものすごい筋肉痛が電気のように意識を蹂躙する。
「ん? ああ、すまんな。やはりいくら鍛えているとはいえお主の体型では少々辛かったか」
(しょ、少々どころじゃないぞっ! いったい何やったんだ!)
「何もこうもない。単にジークフリートと一戦やらかしただけだ。その痛みが今日の状況の代償だと思えば安かろう」
(ぐ……そうだけどさ)
「うむ、分かればよい。多少痛いかもしれんが慣れてくれ」
(な、なにー!?)
「……私も、行きます。少しでも動いていたほうが気分的に楽ですから」
「無理はするなよ。今のお主の身体はお主自身が考えているよりボロボロなのだからな」
「分かって、います……」
セイバーに肩を貸し、居間へ入る。って、全然ゆっくりじゃないってぇぇぇっ!!
(ハ、ハーゲン、人の話聞いてたのかよー!!)
「気にするな、俺も気にせん。第一筋肉痛の時ほど身体を適度に動かしたほうがいいのだぞ。固まってしまっては余計痛くなる」
こ、こいつ……なんか大雑把なやつ……。
俺……というかハーゲンは、テレビのスイッチを入れ、セイバーを座布団の上に座らせた。俺はというと文句も言う体力もすでに尽きかけている。バキバキ言う身体から意識を守るので必死だからだ。
テレビの画像とニュースキャスターらしき怒鳴り声が、居間に浮かび上がってくる。
「……らんください。え、これが冬木大橋です。え、橋を支えていた橋脚の一本が破壊され、自重に耐えかねて一部が崩落したものと見られます。調査団は調査の結果、明らかに外部からの人為的な力が、えー、働いた結果であると断定しております。
また、え、橋の崩落が起こった時刻には近辺を通りかかる人はいなかったのですが、え、付近の住人のなかには数回の巨大な爆発音を聞いた人がおり、えー、ダイナマイトなどの爆薬による破壊ではないかと予想されています。
混迷を極める世界情勢のなかで、ついに日本を標的にした、えー、テロ行為が始まったのでないかとの見方が、関係者各位の間で――」
「……ついにね。……来たかって感じだね。………ん? ……いや、そりゃそうでしょう。テロにはね、屈し――」
「――いわい、怪我人はありません。繰り返します。昨夜未明、○○県冬木市未遠川の冬木大橋を支える橋脚の一つが破壊され、一部が崩壊するという事件がありました。
警察各署では、この事件における事故の可能性を否定しており、なんらかの人為的な外部からの力が関わった可能性が高い、という公式見解を先ほど記者会見の場で発表しました。
冬木大橋は、急開発を続ける冬木市中心部への主要な交通網として機能していましたが、事件発生時刻が深夜だったこともあり、崩壊時に巻き込まれた車両、通行人はおらず、怪我人はいないとの――」
(な―――)
「そういうことだ。ジークフリートが勢い余って橋を破壊しおったのよ。あんなところでグラムなぞ振るってはどうなるかくらい分かろうにな、アホめ。不幸中の幸いは、怪我人がいないことと、なんとかこの事件は人の世の出来事で片付けられそうだということか。
動けなくなったアルトリア殿と、気を失ったままだった遠坂殿は橋の崩壊に巻き込まれそうになったのだが――」
「……私はハーゲン殿に助けられました。凛を助けようとしたところで橋の崩壊に巻き込まれ――」
セイバーは、ぽつぽつと、昨夜の続きを話し始めた――。