ワンダーワールドの虹~ハートの国のアリス以前~

Act.5 悪夢へようこそ

悪夢から助けられたのか。悪夢へ連れ去られたのか。虹を追うことなど、愚者のすることだ。夢追い人よ。

暗闇の中、雲母が煌くような空間で、黒い服の夢魔が待っていた。美しい悪夢の中、彼の声はどこからともなく響く。

「あまり時間はないよ、白ウサギ」
 眼帯を付けた男が真っ青な顔色と紫色の唇で、ペーター=ホワイトを出迎えた。正確には派手に吐血していて、出迎えるどころではない。病弱な彼は相変わらず、彼にこそ残された時間がなさそうな様子だ。

柳眉をしかめて、ペーターの美しい顔が更に酷薄になる。
「言われなくても分かっています、ナイトメア」

芝居がかった調子で、夢魔は穴の先を優雅に示す。
「さあ、愛しい人は虹の向こうだ。連れ去って来るといい」
 ペーター一人の力では、願いを叶えることなど不可能だった。しかしナイトメアが手を貸したお陰で、奇跡にもうすぐ手が届く。ルールを破った者同士、共犯だ。

「彼女は最後にどちらの悪夢を選ぶのだろうね……」
 ナイトメアの世迷いごとなど、長い耳には素通りされる。炎のように狂った情熱を、既に紅い瞳に宿らせているのだから。

「……アリス。僕の愛しい人、待っていて下さい。今、行きますから」
 白いウサギは、光輝く虹の向こうへ駆け出した。

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●あとがき

ナイトメアの吐血を描かなければ、嘘だろうと思いました。

今回が最終話です。本当は入れる予定なかった一話です。全キャラと銘打った手前、出さずにいられなくなった次第です。今まで読んでくれた方ありがとうございました。<(_ _)>

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