ワンダーワールドの虹~ハートの国のアリス以前~

Act.3 未だ見ぬ期待

a.二人芝居

例え珍事が起こったとしても、双子がすることは変わらないだろう。

曇天を映す黒斧を握る手に、一滴の雫が垂れた。警備服とお揃いの帽子の鍔を片手で上げ、あどけなさの残る顔が天を見上げた。

「なあ兄弟。僕たちは何て勤勉な門番なんだろうね。こんな激しい雨の中で誰も来やしないのに、健気にも働いているなんて」
 少年の白々しい言葉が霧雨に混じる。

鏡に映ったかのように同じ風貌の、色違いの少年も応じた。
「ああ、そうだね。僕たちの働きぶりと来たら、どんな勤勉な人間も裸足で逃げ出すよ。労働者の鑑だね」
 二人の声の違いは、調子だけで声質は全く同じ。声だけを聞いていれば、一人芝居にも聞こえるだろう。

青い警備服の少年が口角を持ち上げ、にやりと笑う。
「でもね、兄弟。そんな僕たちみたいな貴重な人材は、大事にされるべきだと思うんだ。もっと待遇を良くしてくれても良いと思う」
 色違いの相方も頷いた。
「そうだね、兄弟。健康な体を維持してこそ、プロと言うものだね。体は大事な資本だ。ボスだってきっと許してくれる。病気になったら元も子もないもんね」

二人は示し合わせたように、周囲をすばやく見回した。どうやら招かれざる客の気配もなかったらしい。

「今ならひよこウサギもいない」
「刺客でも客でもない馬鹿も来ていない」
 そうして相談は、一つの結論を導き出した。

双子の行動はいつだって決まっている。いつだって、ことに便乗して如何に休むか、賃金値上げを請求するか、だ。

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