Super DRY~素直になれない二人~

太陽は天頂におわし、脳天に熱射が降り注いで熱いことこの上ない。まるで鉄板の上の焼肉にでもなったかのようだ。砂に足元をすくわれて、何度もつれたか分からない。

暑さと、歩き難さと、砂塗れの不快さと、連れのつれなさと。そんな様々な理由が綯い交ぜになって、遥か先のオアシスを臨む前からイライラはピークに達している。

今日も今日とて、金稼ぎのためにオアシスへ出向く。オアシスは少し距離があるため、どうしても砂漠を横断しなくてはならない。

一人では危険なので、ちょうど手の空いていた、幼馴染のスチュアート・シンクを同行させている。ある時期から長年ご無沙汰で、昔のように仲良く……とはいかない。迷惑をかけたくはないのだが、まだまだレベルは上がらないので同行者がどうしても必要になる……。

偶々、今の時間帯で同行できるのが彼しかいなかったのも、これは仕方がないことだ……。仕方がないのだ……。

「おい。とっとと歩け。さくさく歩かんと置いて行くぞ。全く。真っ昼間の砂漠なんぞに私を連れ出すとは……後で覚悟しておくがいい」

スチュアートは美しくはあるが、氷のように冷たい男である。砂漠のど真ん中だって、彼は絶対零度の態度を貫いている。王都を出てからは彼の唇からは悪口しか出て来ない。いくら外見が美しくたって、中身が伴わなければ意味が無い。現に雰囲気は険悪だ。

「ぐぬぬ……赤い主夫と同じ声とは言え、腹立たしい……。ちょっと、少しは待ってくれたって良いじゃないのー!」
 私が喚いている間にも、一人でさくさく歩いて行ってしまう。そう言えば、どっかの暗殺者も暑いのが嫌で、不機嫌になってたっけ……。

夜には夜で、酒場で商人に戦利品を売りつけるという大事な取引がある。いつだったかスチュアートを誘ったとき、迷惑そうにしていた。酒気が苦手……と言うか、酒そのものが未だにダメなのであろう。本人は下戸であることを隠しているが。

ようやくオアシスに辿り着き、一息ついた。小一時間休みなく歩き続けて、いきなり戦闘を始めるほど体力がある訳ではない。

自分の水筒を開けようとしているスチュアートに慌てて声をかける。
「スチュアート、喉が渇いてるでしょう? 今日の水筒の中には麦茶が入ってるの。いつも水じゃあ味気ないからね」
 彼は何の疑いもなく、差し出された杯を受け取った。私はニコニコ……と言うかニヤニヤが止まらない。

「む。偶には気が利くではないか」
「遠慮なくグイッと飲んじゃって頂戴。全部飲み終わったらオアシスの水を入れていくつもりだから」
 一息に飲んでしまったスチュアートは怪訝な顔で、飲み物が本当に麦茶かを尋ねて、返事を待たずに後ろへ倒れてしまった。ちょっと頭にタンコブが出来ていないか心配だが、赤く熱った寝顔を見ていると笑いがこみ上げてくる。

ぶぷー! 本当に弱い!! 本当は『泡の出る麦茶』を水筒に入れてきたのだ。因みに今回の銘柄はアサ●の『スーパードライ』。辛口でドライなスチュアートにぴったりだと思って持ってきたのだが……。

「飲めないくせにスーパードライ……」
 
笑いながら、水の入った水筒に口を付けた。
「ふふふ、偶にはオアシスでのんびりするのも良いよね。さてスチュアートが目を覚ますまで、オアシスでまったりしますか……」

「…寝顔だけは昔とちっとも変わらんな」
「……ん」
 目を開けると、真ん前の端整な顔が斜陽に照らされていた。見慣れた顔だけど、何度見ても見飽きない。不覚ではあるが、初恋の相手の顔は夕日に映えて、なお一層憂いを帯びて美しく見える。私はこの顔に弱いようだ。

「おい。何を笑っている。下らん悪戯を仕込んでおいて寝こけた奴が笑うな!」
 微笑をどう取り違えたか、のん気に笑っているように見えるらしい。燻る熾火のように、静かに怒りを湛えているスチュアートがいる。

「今、何刻だと思う」
「何刻……って。うそ、もう夕暮れ?! 寝すぎた!!」
 勢いよく起き上がっても、沈んでいくお日様は戻って来ない。お日様、カムバ~ック!

「そうだ! お前、半日を潰したんだぞ?! 分かっているのか? まさか一服盛るとは思わなかったぞ」
 ああ、本当にスチュアートには悪いことをした。……盛ったのは毒ではなくて酒なんだけど。ここは素直に謝らなくては。

「ごめん。まさか私まで居眠りするとは思わなくて……。忙しいスチュアートがわざわざ時間を割いて同行してくれたのに、時間を無駄にしてごめん……」
 素直に謝ったけど、北の御曹司様は何だか見当違いの方向で激昂していらっしゃるようだ。

「阿呆! オレのことはどうだっていいんだ! 問題はお前だ!」
 どうだっていい?
 今、自分のことをどうだっていいって言った? 今朝方まで目に下にクマ作って、ほうほうの体で出かけた人がどの口で言った……?

「どうでも良くないわよ! 私は自己責任で……」
「お前、このままだと確実に取引に負けるぞ。賭けても良い」
 
私の言を遮って、スチュアートは私を睨みつけた。負けずに睨み返す。
「負けないわよ。取引に勝つために頑張ってるんじゃない。このままって?」
「毎日戦闘をして金を稼いでも、一千万いくかどうかギリギリだと言っているんだ。だと言うのに一日でも無駄にしたら余計、可能性が無くなるんじゃないのか。もっと考えて行動しろ」

確かに、戦闘と依頼の達成報酬合わせても、大した額は稼げない……。それは正しいのだけど。
「……私がどう時間を使おうと、それは私の勝手でしょ。取引の勝ち負けはスチュアートに関係ないわよ」
「関係ある」

何故そこで即答?! 勢いで言ってるんじゃないでしょうね?
「どう関係あるって言うのよ!」
「……お前には告げる必要のないことだ」
 ムカつく。歯にモノが挟まった感がありありで、とにかくムカつく!

「訳分かんないわよ! こっちの都合に口出ししてきたり、どう関係するのか聞けばだんまりだし! アンタいったい何がしたいの! 私に解るように説明しなさい」
 
腹に溜めに溜めていた、今までの不満を全部言ったらスッキリした。我ながら今、恐ろしく上目線で物申した気がする……。

ちょっと後悔して、視線が合わせられない。低い呟きがさらりと耳を撫でる。
「私がどれだけお前に時間を割いていると思っているんだ」
 訝しく思って顔を上げるが、反対に俯いたスチュアートの顔は夕闇で見えない。

「? 毎日誘ってる訳じゃないでしょ? 力を貸してもらってるから感謝はしてる。皆に助けてもらってる分、勝たなきゃ嘘だと思うし」
「そういう意味じゃない」
 掠れて押し殺したような声で、何かを堪えるような表情でスチュアートは私を見た。一瞬だけ何かが背筋を駆け抜けた気がした。それは瞬きの間に霞のように消えてしまって、彼の顔もまたいつものムッツリした表情に戻っていた。

「好い加減、日も落ちた。帰るぞ、アイリーン」
 ぼーっと呆けた頭に活をいれ、置いて行かれまいとスチュアートの長身を追う。長い銀髪が風に揺らぎ、不思議な色合いを見せる様をついつい目で追ってしまう。

急に振り返ったので少し慌てた。見蕩れていたのでばつが悪い。
「ところで私に何か言うことはないのか?」
「言うこと?」
 言いたいことは先ほど一通り、スッキリ吐き出したと思う。もうカスも残っていない。

柳眉を吊り上げて、両腕を組み、言うまで返さんという仁王立ちのポーズ。沈黙にますます眦を吊り上げるスチュアートにかける言葉が見つからず、私はただ狼狽えるばかりだ。でも何も出て来ない。これ以上何を言えと言うのか……。

「私に一服盛ったことへの謝罪を要求する」
「嫌」

「はあ?! 何故だ!」
「別に毒じゃないから死なないんだし、良いじゃない」
「良くない! 騙し討ちをするなんて卑怯だとは思わないのか!」
卑怯上等! だって私は犯罪大国ギルカタールの第一位後継者よ? 卑怯が何よ」
「ぐ……開き直るな」

仕方ないじゃない。卑怯はお家芸だ。悪事を犯してもばれなきゃ良いし、ばれても開き直るだけだ。それに何より、これに関しては悪いことしたなんて思っていない。恥ずかしくて正面から言えないので、ソッポ向いて本心を伝えた。

「だってスチュアート、働きすぎよ。目にクマ、できてたから休んでほしかっただけ。ちょおおおっとやり方が強引だったかもしれないけど……」
 ちらと上目遣いで見れば、無反応なスチュアートが映る。何故か無表情で、なんか得体の知れない迫力がある。居た堪れない空気がたちこめて、むしろ怒ってくれた方がまだマシだと思い始める。空気がこんなにも吸い辛いものだとは知らなかったわ……。

「……おい」
「……何よ」
 折れそうなほど細いくせに、しなやかな力強い腕が伸びた。気づけば息苦しいほどに体を押し付けられていた。客観的に見れば、それは抱き合っている形になる。でも、いや、ほんとにマジで苦しい。

「……ズヂュアード? ぐ、苦じい……」
「我慢しろ。これでチャラにしてやる」
 気のせいか、目の脇に移る耳が赤い。そんな様子を見てしまうと、自分より大きな男が可愛く見えてくるのが不思議だ。

小さな子供をあやすように、頭を撫でて髪を梳く。
「……照れ屋なんだから」
「うるさい。これからはちゃんと休む。今度やったら、こんなものでは済まさん」

お日様は沈み、代りに頭上には燦然と輝く星々が私たちを見守っている。夜の砂漠は一気に気温が下がるから、帰らなくてはいけないのに。もう少しだけ、こうしていたいと願う自分がいた。

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あとがき

元々は4コマ予定でした。……例によって、また長くなりました。スーパードライネタが書きたかっただけですよ。

スチュアートって辛口だけど、仲良くなるとプリンセスに甘いですよね。気づけばラブラブ展開になってた……。乙女ゲームで色々勉強したんだけど、ラッヴラヴは難しい! 砂吐いて良いですか! もうお腹いっぱいです!